モーターフェーダー用ギアの再生
とあるご縁で、音響機器管理のご担当者様からこんなご相談をいただきました。
- ・使用中の音響卓のモーターフェーダー用ギアが劣化し、次々と割れてしまった
- ・メーカーに修理を依頼すると予算オーバーで現実的ではない
「ギアさえ何とかできれば問題ないのだが……DFCさん、なんとかなりませんか?」

モーターフェーダーと割れたギア
STEP 1. ギア製作に向けた3Dプリンタと素材の選定
まず、ギアの製作にあたり、どの3Dプリンタでどの素材を使うかが重要なポイントです。
これまでの経験を踏まえ、以下の2つの方法で検討を進めました。
- Form 4(素材:Tough 2000 / ABSライク)
- Fuse 1(素材:ナイロン12)
今回の依頼では、全チャンネル(38箇所)のギア交換が必要とのことですが、
まずは両方の素材でサンプルを造形しました。
STEP 2. 実機テストの結果と評価
つぎに、実機でのテストを実施していただきました。
お客様にサンプルギアを取り付けていただき、現場でテストを行った結果とご感想がこちらです。

ギア取り付けテストイメージ
- ・見た目の仕上がりは、Form 4形モデルの方が良好
- ・Fuse 1造形モデルは、歯の直径が図面より0.5mm小さい
- ・どちらも若干の軸の偏心があり、特にForm 4モデルでは回転時にフェーダーが重くなる傾向も見られた
- ・一方で、Fuse 1モデルはベルトとの間に適度なクリアランスが生まれ、スムーズな動作が得られた
今回、最も重視すべきは機能性です。もともとのギアが割れた原因は、おそらく機器内部の熱による劣化と推測されます。これらの点を踏まえ、高い耐熱性と機械的強度を持つFuse造形モデルを採用し、全38本のギア交換を行うことを決定しました。
STEP 3. 38箇所のギア交換とその結果
つづいて、テスト結果をもとに再設計し、38個のギアをFuse 1で造形しました。

Fuseで造形したギア
すべてのギアを交換し、結果は――大成功!
現場の音響担当者様からは、「操作中にギアの不具合や違和感は一切ありません」 という非常にありがたいお言葉をいただきました。
取り付け後も、ギアは問題なく動作しており、現時点では十分な機能性を発揮していると高く評価いただきました。
スムーズな動作が維持されており、実際の運用においても安心してご使用いただけているようです。
ただし、ひとつ懸念点として挙げられるのは、長期使用における経年変化の影響が、まだ予測しきれないという点です。
とはいえ、今回使用した3Dプリンタと素材を使えば、仮に今後ギアが再び破損したとしても、同じ設計で再造形が可能です。
つまり、交換パーツの「再現性」が確保されているため、将来的なメンテナンスも安心です。
まとめ:3Dプリント技術が再び機材を現場へ
老朽化で修理が困難だった機材が、再び現場で活躍できるようになりました。
ただし、今回は非常にうまくいったケースで、もちろん毎回成功するとは限りません。
とはいえ、3Dプリント技術を活用し、
「もう使えない」を「まだ使える」に変えていくことができるかもしれません。
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